週休2日

どうか今日も適当に生きて

コインロッカー・ベイビーズ

おはようございます。こんにちは。こんばんは。どうも。
コインロッカー・ベイビーズ。初日と次の土曜と2回観劇しまして私的千秋楽終え、東京楽も終わりましたね。お疲れ様でした!地方公演もカンパニー全員が怪我なく走り抜けられますよう!ほんっっっとうに先週土曜の公演観劇前30分の間にいろいろあったんですけど、もう忘れたいので言わないことにしときます…本当に私的ヲタク史上最悪の展開からの運命のいたずらだったんですけど、どうしても聞きたい方いましたらツイッターでリプなり飛ばしてください…(かといってツイ垢は教えない探してください(?))

二回目の時に買おうと思ってたパンフレットを買いました。原作にどの時点で触れてるとか、原作ファンだとか、どういうことを観劇する側に伝えたいのかとか、どんな舞台にしたいのかとか、ボリュームたっぷりのインタビュー記事だった。あと、過去にNHKの番組「一読永劫〜ベストセラー作家が選ぶ名作の風景〜」で石田衣良さんがコインロッカー・ベイビーズを取り上げていらして、様々なところを訪れていた。石田衣良さんが汚染地域、薬島をイメージした西新宿、またハシとキクが育つ廃墟のある島のモデルになった長崎県軍艦島に訪れていて、その番組をテキスト化したものも載っていたり、読み応え十分のパンフレットだった。見た人は見たあとに読んでいろいろ考えたり、自分の中に落とし込んだり、いろいろできるので購入がおすすめ。さなぴーが原作ファンだったなんてパンフレット買わなかったら絶対に知らない情報だった!私の小説の読み方がさなぴーと似ていて、さなぴーの言うことがとても興味深かった。

僕、本を読む時って、読みながら全部、映像に起こすんですよ。ドラマを見るような感覚で読まないと、頭に入ってこないタイプで。『コインロッカー・ベイビーズ』から浮かんだ映像は、退廃的だけど先鋭的で。ゆとり世代の僕にしたら、見たことのないような景色でしたね。非現実的なんだけど、どこか現実的でもある、魅力的な世界でした。内容的には、僕は深読みしなかったので、読み終わった後、「何だこれは!何が起きたんだ!!」って衝撃を受けたことをはっきり覚えてます。

私も小説読む時は文字を映像化して脳内で再生しながら読むタイプで。最初原作を読んだ時脳内に映し出された映像はまさに「退廃的だけど先鋭的」で、汚染地域はくすんだネオンと廃墟、ハシとキクが育った島は常に白く靄がかかったような景色で幻想的というか。汚染地域の方が現実味を帯びてて、育った島はむしろ誰かの想像なんじゃないかってくらいフワッとした景色だった。多分ハシもキクも育った島が大好きで、頭の中で美化しすぎるくらい美しく見えていて、何もないあの島が自分のふるさとで、キクは東京で生きていくには東京をあの島みたいに何もない、美しい場所にしなきゃって思ったんでしょうね。
あと、私のイメージではDはもっと太ってたんですけど、痩せてスラっとしたDもかっこよかったです。関西弁すごい。ROLLYさんがインタビュー内でD役について語っていて。

あと、Dはフレディー・マーキュリーもちょっと入ってるかな。物語の舞台は80年代ですから、当時流行っていたスーツの形とは違うと思います。肩幅が広かったはず。けど、Dはどんな時代にも属さない人だから。ズレてる方が面白いでしょ。
今日、オープニングシーンのビジュアルを見たんですけど、僕が昔、5年間やっていた『ロッキー・ホラー・ショー』っぽくて、好きな感じだなと確信しました。
(中略)
愛される悪役になれればうれしいですね。愛される悪役ですね。あとちよっと変態っぽさもあったりして。変態って、インテリジェンスの高い人のみが、たしなむ趣味ですから。舞台上でそういう風でいられたらいいなと思っています。で、Dがでてくると、空気がちょっと違う質感になる、もしかしたら、お客さんの息抜きになる、そんな風になれればいいかと思います。

俳優さんっていうのは本当にすごいなと。いろんなこと考えて、ここをどうしたらどう相手に伝わるのかとか、ここはこう感じてもらいたいとか、でもここはこう深みのある表現にしてお客さんに想像してもらって自分なりの答えを出してもらおう、とか。こっちも想像力と脳みそフル回転させて、舞台上のものを全身で受け取らないといけないんだなとしみじみ感じさせられました。
ROLLYさんはDの関西弁についても言及していて。スタイリッシュでカッコイイ感じの関西弁を出していこうという話でまとまったらしく。ドスの効いた怖い感じだけではなく、賢そうな、まさに「インテリジェンス」のある闇の世界の人。Dが出てくることでハシの生き方に光と道筋が見えてきて、ハシが始めて自分から愛情を注げる相手、ニヴァと出逢わせてくれるわけだから、Dは本当に大事で難しい役で、その役をROLLYさんが大切にしてくれて本当に良かった。その場に馴染むわけではなく異様な雰囲気をガンガンに出しながらも、そこに確実に居場所があって、周りに影響を与える。私は実はDの存在がストーリー上一番大切なんだろうなと思います。

アネモネ演じる、昆さんは本当に魅力的。ハシとキクは別にして、原作とイメージがピッタリ合ってるのはアネモネかなあ。洋服がカラフルで、小柄で、髪が長くて、ピョンピョンしてて、全身からエネルギーが放出された生命力溢れる、女の子。キクのことが大好きで大切で、疑うことなく信じていく。キクは自分のことをまるっと信じてくれるアネモネだったから、愛せたのかな。昆さんは歌唱力も本当にすごい。シアターいっぱいいっぱいに昆さんの歌声が充満する瞬間は最高に気持ちよかったなあ。

で、ハシとキクの話。ハシとキクはああやって生きるしか、生き方を知らなかった。コインロッカーに捨てられ、コインロッカーからまた生まれたという自分の過去は変えられない。他の人とは違う。捨てられて、母親と神様から「お前はいらない」と言われて、それでも生きていかなければならなかった。2人はお互いにつながりあって生きていて、でもタイプは全然違う。キクはずっと強い意志を持っていて、アネモネと新しい世界を作ろうとした。ハシはとても弱い人だった。けれど、周りに支えられ自分の才能を発揮して生きていく道を作り出した。

キクがダチュラを使ってテロを起こして東京を破壊して真っ白にしようとしたのはハシのためなんだろうな、とまず思った。ハシはもはや自分の一部だったからあんな風に狂っていく姿を見ていられなかった。ハシがあんなに苦しんで、狂っていくなら、世界を壊して真っ白な綺麗な世界にしてあげなきゃという強い想いからかな、と。キクがハシを助けなきゃ、何かしなきゃ、と思った時に壁の歌歌うと思うんですよ。どこを見ても壁だ、とキクは叫んでる。ハシを止めに走り出したいのに壁に囲まれている。壁を登っても頂上の人に突き落とされる。そんな自分が出来るのはダチュラを使って世界を丸ごと綺麗にしてしまうこと。綺麗サッパリ、自分の真っ白な世界を作ろうとした。

そしてキクには自分にとって大切だと思える人のことは愛せる力が元からあったように思えた。母親に捨てられて、愛情を知らずに生まれてきたけれど、里親がハシを探している間に亡くなったことをハシに伝えて、手を合わせてやれ!と怒るときも、里親への愛情があったからこその怒り。ハシを守らなきゃという想いも、アネモネと一緒にいるときも、キクの人を愛する力ゆえかなあ。
それに対してハシは、自分から人を愛することを簡単にはできなかった。ハシは周りから愛されて大切にされる人。最初はキクに愛され、Dに大切にされ、ニヴァからも愛される。でもハシがずっと追い求めていたのはキクでもDでもニヴァでもなく、幼い頃に聞いた音の正体。あの音だけが自分の味方だと考えていたのかな。この音を聞くためには「愛する人を殺さなくちゃいけないんだ、だから僕はニヴァを殺さなくちゃいけないんだぁ……………」と言っていたので、ニヴァのことを愛していたのかなと考えられるけれど、この時のハシはまだ本当の愛を知らないと思う。本当の愛は知らないけれど、Dとニヴァがハシに「愛の存在」自体を教えてくれた。ハシにとってDとニヴァは間違いなく重要な人物。2人は生きていくことを教えてくれたのだから。

最後に2人は幼い頃聞いた音の正体を知って、新しく自立して生きていく。新しい自分だけの音を求めて、見つめて、前に進もうとする。コインロッカーの中で強く「生きたい!」と思ったその生まれ持ったパワーを今度はしっかり自分の力にして、先に進む。もう狂っていた頃のハシとは目が違う。キクの強い意志を持った瞳はまた一味違うものになっている。この世界で生きていこうと決めたハシとキク。最高ですね、本当に。

橋本くんと河合さんが、本当に、「いつもと違う」2人だった。いや、「いつもと違う」というより、そこに橋本良亮と河合郁人はいない。いるのは、ハシとキク。ハシはハシであり、キクはキク。河合さんが、「河合感」を無くすような演技をした、みたいなこと言ってたり、橋本くんが「いつもの僕の歌声を知ってくれてる人にはいつもと違う、と思ってもらえるように」と言ってたり、2人の努力がちゃんと素人でも見えて分かる舞台でした。橋本くんはハシの狂っていく様子を微妙に変えていたりして、キクだけじゃなくて観客も本当に心配になるくらいハシはとんでもなくハシだった。橋本くんにハシが憑依してた、というより、本当に「ハシ」という人がそこにいたのが見えた。橋本くんが連載で「ずっとハシの隣にいたい」と言うように、橋本くんとハシは重なり合うように隣あって立ってるのかな。
音楽劇だったり、舞台でのキスシーンだったり、宝塚の方が演出を手がけてくださったり、2人にとって初めてのことがたくさんあって、素晴らしい俳優さん女優さんに囲まれて、2人の俳優としての道にいろんな刺激になって、2人が演技が楽しいと本気で言っていて、またこうやって成長して先に進んでいくんですね。この感覚が最高に楽しい。

この舞台で伝えたいことについてROLLYさんはこう語っていました。

途方もなく普通で当たり前のことですが、2億4千万の精子の中から、猛烈な競争をしたマラソンをトップで勝ち抜いて受精され、母親の中で育って、この世に生を受けた。その生きる権利をね、人間だけではないですよ、すべての生き物の命の大切さを考えたいですね。日本で大スターになるよりも確率が低い中を勝ち抜いてきたんだから、今、ここに生きているだけでもすごいんだよ、と。

ハシとキク以外の人も含めて、生きていくことって簡単なことじゃない。大変なことも辛い時も、何かを壊したくなったり、欲望のままに動きたくなる時だってある。でもその世界の中で何を見つめて、見極めて、なにが大事なのかをちゃんと考えて、何を、誰を愛して、誰と時間を過ごすのか。やっぱり、そういうことなんですよ。コインロッカーの中から生まれた子供の成長の話が中心になっているなら、伝えたいことは、生きることの素晴らしさなんですよ。でもその大事なメッセージはこの舞台の奥の方に隠されてる。そのメッセージを自分のコインロッカーをあけて自分の目で見て、確かめられるのかっていうところが私たちの任務なんじゃないかなと、思います。